IEC61340-5-1とは?どういった職種で必要になる?
IEC61340-5-1とは?どういった職種で必要になる?
「IEC61340-5-1って何?どうして普通の作業服ではダメなの?」「静電気対策の作業服ならどれでも良いわけじゃないの?」と疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。
電子機器製造業界の新入社員さんや品質管理部門に異動したばかりの方々は、このような規格の理解に苦労されることが少なくありません。
この記事では、IEC61340-5-1の基本的な内容から、JIST8118との違い、そしてどのような職種で必要とされるのかまで、わかりやすく解説していきます。
静電気による製品の損傷やトラブルを防ぐためにも、適切な静電気対策の知識は製造業に携わる方々にとって非常に重要です。
目次
IEC61340-5-1とは
IEC61340-5-1は、静電気放電(ESD)から電子部品を保護するための国際規格です。この規格は特に電子機器の製造工程や取り扱い環境において、静電気による損傷を防ぐための具体的な対策と基準を定めています。
IEC61340-5-1は国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)によって制定された規格で、「静電気放電に敏感なデバイスを扱うためのESD保護プログラムの実施に関する要求事項」を規定しています。特に製造現場や電子デバイスを取り扱う現場での静電気コントロールに焦点を当てているところが特徴です。
この規格の中心となる考え方は、「ESD保護区域(EPA: ESD Protected Area)」の設定と管理です。EPAとは静電気対策が徹底された作業エリアのことで、ここでは床や作業台、作業者の衣服や装備など、あらゆる面で静電気の発生と蓄積を防ぐ対策が取られます。

IEC61340-5-1の2つの規定
IEC61340-5-1では、静電気対策に関する衣服の規定として、大きく2つの重要な項目が定められています。
具体的には、まず衣服の全ての部分が電気的に連続していること、そして衣類の表面抵抗値が1.0×10の12乗Ω以下であることが求められています。
これらの条件を満たした作業服を着用することで、作業者の体内で発生した静電気を安全に逃がすことができるようになっています。
衣服の全ての部分が電気的に連続であること
IEC61340-5-1では、衣服のすべての部分が電気的に連続していることが極めて重要です。これは、作業服のどの部分からも静電気を確実に逃がせるようにするための基本条件なのです。
電気的に連続しているとは、具体的には衣服の素材や縫い目、ポケットなどすべての箇所が電気を通す性質を持ち、互いに繋がっている状態を指します。これにより、体内で発生した静電気がどこかに溜まることなく、全体を通して安全に放電できるようになるのです。
この規定が必要な理由は、静電気の危険性にあります。
例えば、袖口だけが導電性でその他の部分が絶縁状態だと、静電気が局所的に溜まってしまい、突然の放電で精密機器にダメージを与える可能性があるのです。特に半導体や精密電子部品は百ボルトの静電気でも致命的な損傷を受けることがあります。
衣類の表面抵抗値が1.0×10の12乗 (Q)以下であること
IEC61340-5-1では衣類の表面抵抗値について、1.0×10の12乗Ω以下という明確な数値基準が設けられています。この数値基準は、静電気対策の効果を客観的に評価するための重要な指標なのです。
表面抵抗値とは、素材の表面をどれだけ電気が流れやすいかを示す値で、数値が低いほど静電気を逃がす性能が高いことを意味しています。
この規定が重要な理由は、衣服に溜まった静電気が一気に放電する現象(ESD)を防ぐためです。表面抵抗値が高すぎると静電気が蓄積されやすく、逆に低すぎると急激な放電が起こる可能性があります。
1.0×10の12乗Ω以下という基準は、静電気の蓄積を防ぎ、電子デバイスを静電気放電から保護することを目的にした値なのです。
JIST8118との違い
IEC61340-5-1とJIST8118の最大の違いは、その適用範囲と要求水準にあります。IEC61340-5-1は国際電気標準会議が定めた国際規格であるのに対し、JIST8118は日本工業規格(JIS)として国内向けに策定された基準なのです。
国際規格であるIEC61340-5-1は、目的の異なる静電気対策を求める傾向があり、特に半導体や精密電子機器の製造環境において重視されています。一方、JIST8118は日本国内の製造環境に合わせた基準となっており、実務的な観点から作られた側面があるでしょう。
JIST8118について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
https://www.nihonhifuku.jp/columns/what-is-jist8118/

IEC61340-5-1を満たす作業服はどのような職種で必要になるのか
IEC61340-5-1を満たす作業服は、精密機器や電子部品を扱う現場で非常に重要な役割を果たしています。
具体的に3つの職種についてご紹介します。
半導体製造業
半導体製造業は、IEC61340-5-1対応作業服が必要とされる代表的な業界です。半導体チップの製造工程では、1ナノメートル単位の微細加工が行われており、ほんの小さな静電気放電でも回路に致命的なダメージを与えてしまいます。
特にウェハー処理やフォトリソグラフィー工程に携わる技術者は、静電気対策が徹底された作業服の着用が必須となっています。わずか数ボルトの静電気でも半導体素子が破壊されることがあるのです。
精密機器の製造・検査
精密機器の製造・検査工程に携わる技術者もIEC61340-5-1対応の作業服が必須です。スマートフォン、タブレット、PCなどの電子機器組立工場では、基板実装から最終検査まであらゆる工程で静電気対策が重要視されています。
特にマイクロプロセッサやメモリチップが組み込まれた製品の製造ラインでは、静電気によるダメージが不良品発生の主要因となり得ます。この職種で使用される作業服には、耐久性と動きやすさも求められます。
長時間の細かい作業でも疲れにくいよう、軽量で通気性の良い静電気防止素材が好まれる傾向にあります。
医療機器製造業
医療機器製造業は、IEC61340-5-1対応作業服が不可欠な分野の一つです。特に体内埋め込み型ペースメーカーやインスリンポンプなど、人命に直接関わる機器の製造現場では、静電気による製品不良が許されません。
最新の医療機器には、ナノスケールの精密センサーや微細な集積回路が使われているため、静電気に対する脆弱性が高いのです。
医療機器の不具合は患者さんの健康リスクに直結するため、静電気対策は単なる品質管理ではなく、企業の社会的責任とも言えます。そのため、医療機器製造業界ではIEC61340-5-1への準拠が業界標準として定着しているのです。
作業服一つをとっても、患者さんの安全を守る重要な役割を担っているといえるでしょう。
IEC61340-5-1を満たすおすすめの静電気帯電防止作業服
IEC61340-5-1規格に準拠した静電気帯電防止作業服は、電子機器の安全な製造に欠かせません。
おすすめの作業服を選ぶ際は、まず素材と構造に注目しましょう。カーボン繊維を織り込んだポリエステル混紡素材は、導電性と耐久性のバランスが良く人気があります。また、全ての縫い目が導電糸で処理されていることも重要なポイントです。
作業服選びでは、快適性も妥協できない要素です。一日中着用することを考えると、軽量で通気性の良い素材を選ぶと作業効率が上がります。また、ポケットやファスナーなどの金属部分も静電気対策がされているかチェックしてみてください。